hiden voice


2009/3/16「思う・・・」

皆さん、こんにちは。
花粉も飛び始め、僕にとっては嫌な季節がやってきました。
つい先日、練習中に花粉にやられて、大変な日を過ごして、僕は少しビビッています。
「今年は花粉が多そうだな・・・」と。

さて、僕の今シーズンも、この春の訪れと同時に終わりました。
まぁ、これからも雪がある限りは、楽しんで滑りたいとは思っていますが、
一通りの大会を終えて、大きな怪我もなく、今はホッとしているところです。

まずは皆さんに、今シーズンの最後の大会報告をしますね。

確か、前回のメールでは中途半端な数字の定位置を脱したい・・・と書いていましたね。
僕はその後、色々と考えて取り組んでいました。
今の状況を脱するために、何が必要なのか?そして、どう取り組むべきなのか??
そんな時、ちょうど読んでいた本から大きなヒントをもらいました。
その本を書いた方は、若くして会社を設立し、いまや世界を代表する会社にまで成長させた方ですが、
その方は、“狂”がつくほど「思う」ということを強く言っておられます。
何事にも、「思う」ことでしか物事は成就しないというのです。
つまり、人生においても、仕事においても、私生活においても、何か目標があったら、
それを達成させるために“狂”がつくほど強く思い、実現を信じて前向きに努力を重ねていくこと。
一日一日を「ど真剣」に生きて、寝てもさめても強烈に思い続けること。
安易に近道を選ばず、一歩一歩、一日一日を、懸命、真剣、地道に積み重ねていくこと。
夢を現実に変え、思いを成就させるのは、そういった努力が必要なのですね。

そう考えると、僕はぜんぜん「ど真剣」ではありませんでした。
確かに、海外で長い間滑り込んでいる選手や、スノーボードだけに没頭できる選手たちとは、
取り組む環境や練習時間に大きな差があります。
それを埋めるのは簡単ではありません。
だからといって、初めから気持ちも負けていたら、絶対に勝てるわけがありません。
技術的なこと、体力的なこと、環境や練習時間のこと、普通に考えたら大きな差がありますが、
それを補える方法は、もしかしたらあるのかもしれません。
僕は・・・環境や練習時間の差を理由に、初めから勝負から逃げていた、
そう考え、今までの取り組みとはまったく違う方法でスノーボードに取り組みました。

気持ちを強く持って取り組むと、色々なことが変化し始めました。
まず、すべてに対してポジティブになるため、失敗しても、うまく滑れなくても、
いい方向いい方向に考えるようになり、気持ちが負けないのです。
その結果、練習していても集中力は高まるし、滑りのフィーリングも向上するし。
そうなってくるといいことだらけで、まず失敗を恐れないので、不安要素が無くなります。
そして、スタートに立ったときには、「いける!」という強い気持ちしかないのです。
そんな充実した練習を過ごし、僕は最後の全日本選手権とプロツアー最終戦に挑みました。

3月12日FIS全日本選手権in上越国際 GS

当初は、パラレルジャイアントスラロームが予定されていましたが、雪不足のために、
開催バーンを変更して、ジャイアントスラロームで大会が行われました。
前日から降り続いた雪は、水分を含んだとても重い雪でしたが、自衛隊や運営の方々の努力で、
綺麗な大会バーンが用意されました。
コースは中斜面や緩斜面が主で、曲がったり落ちたり、また曲がったりと、結構長めのコースで、
タイムにすると1分10秒くらいのコースレイアウトでした。
こういったコースになると、本当に技術の差でタイム差は大きくつくので、
慎重にインスペクションをして、イメージを高めることに集中しました。
僕の一本目のスタート順は18番。
残念ながらシード選手ではないですが、まぁ、悪くないスタート順ですので、
十分にシングルに食い込んでいけるチャンスはあります。
少しガスがあり視界は十分ではありませんでしたが、気持ちは乗っていましたね。
イメージもよく、スタートしました。
そして、滑り始めてから中盤までは、ほぼ完璧なる手応えでの滑りだったと思います。
中盤の斜面変化の手前で、攻めていた結果ラインが少し外れてしまいました。
普通ならば、致命的なミスではないのですが、吹き溜まった重い新雪にノーズが刺さってしまい、
大きくバランスを崩し大転倒。
「うわぁ、しまったこんなところで・・・」
それでもあきらめずに、強い気持ちを持ってリスタートしました。
何とかゴールへ、何とかゴールへ。
しかし、2度目の斜面変化後にも、ラインの深い溝に板がとられて2度目の大転倒。
だけど僕はあきらめなかった。
今までの僕ならば、きっとそこでレースを終わらせていたと思う。
必死でゴールを目指し、何とか、何とかゴールまでたどり着いた。
ラップは戸崎の1分5秒台、僕は1分34秒くらいだったと思う(苦笑)
でも、あきらめずにゴールしたことは、必ずプラスになると、そう信じていた。
2本目は、1本目のタイムから50番スタート。
今の僕に、スタート順はあまり関係なく、いかに自分の納得するものが出せるか?
それが一番の課題であり、そこに最大の充実感があるのだと思う。
2本目も、相変わらず気持ちが途切れずに乗っていた。
スタートに立ったときには、なんとも充実感があった。
結果的には、まだまだ未熟な滑りだったけど、うんうん、今回ばかりは納得。
1本目も2本目も、自分をすべて出し切れた大会だったからとても満足。
1本目、今まで同様に滑っていたらきっと平凡なタイムで、また中途半端な位置だったと思う。
だから、攻めた結果だし、今回の全日本はとても大きな充実感があった。
転ぶのもまた技術の差。
上位に行った選手たちには、心からおめでとう・・・と言いたい。

3月13日 プロツアー最終戦in白樺湖ロイヤルヒル DU

全日本を終え、気持ちを切り替えてすぐにプロ戦最終戦に向かう。
今シーズン初めてのDU種目だから、僕の気持ちはとても高まっていた。
実は僕、GS系はあまり得意じゃなくて、どちらかというとDUの方が得意だ。
それに、テクニカルになればなるほど、燃えるし能力を発揮する。
今回は最初で最後のDU種目だから、ちょっとくらい良いところを魅せたいよね。
予選1本目は、攻めすぎず、押さえすぎず、リズムを大切にして滑った。
コースレイアウトが、途中から曲がっていくリズムの取りにくいセットだったから、
まずはこのコースに対してのフィーリングを感じることが大切だと考えた。
それに、DU種目というのは、まずは決勝(トップ16人)に残らないと意味が無い。
決勝にさえ残れば、誰にでも勝てるチャンスはあるからね。
それでも、1本目は滑った側のコースで2位につける。
予選2本目は、う〜ん、これは良くなかった。
色々と試そうとしすぎて、リズムも悪いし、フィーリングもまったく良くない。
ゴールしてみると、タイムもぜんぜん良くない。
これはまずい!
しかし、他の選手もあまりタイムが伸びずに、1本目の貯金もあり8位でファイナルラウンドへ通過。

今回の最終戦は、僕にとっては大きな意味があった。
それは、「もしかして最後になるかも・・・」なんて思う時期もあって、
両親に、一度でもいいから僕の滑っている姿を見せたかったんだ。
両親はスキーもスノーボードも出来ないから、歩いて観戦できる場所が必要だったし、
そういった意味では、今回のロイヤルヒルは適していると思ったんだ。
親父は南極に行くような格好してきて、お袋は目立たないような格好してきて、
でも、両親を僕の妻がきちんとケアしてくれて、両親はとても楽しんでいたようだ。
妻は、古いビデオカメラを引っ張り出してきて、修理に出して直して、
寒い中ずっとビデオを撮ってくれていた。
僕はいつも一人で動いていたから、なかなか自分の滑りを見たことも無くて、
だから、今回の映像はとても貴重な宝物となると思う。
妻の性格というか、両親のこと、僕のこと、真剣に思ってくれて本当に感謝している。
ちょっと話がそれちゃったけど、初めて両親が見に来てくれたことで、
僕にとってはとても貴重な、そして大切な思い出となる大会になったんだ。

決勝ラウンドの一回戦は、中川大輔。
大輔は去年一年間プロツアーお休みしていて、一年ぶりに復帰してきた選手。
それでもきっちりとファイナルに残ってきた。
きっと、一生懸命練習してきたんだろうな。
それに彼はとても真面目で、男気な感じが顔からにじみ出ていて、とてもいい奴なんだ。
お互い、全力で滑らないと勝ちあがれないから、ガチンコで勝負したよ。
僕は、予選2本目のイメージを引きずっていて、なかなかうまくリズムが掴めない。
大輔のミスにも助けられ、何とか1回戦は勝ち上がることが出来た。

2回戦、相手は予選をぶっちぎり1位で通過してきた川口晃平。
こりゃ相手が悪い、それが率直な気持ち。
それでも、DUは何が起こるかわからない。
僕は、気持ちを強く持って晃平に挑んだ。
晃平とは、色々と衝突した時期もあったけど、今は一緒の環境で練習したり、
時にはビデオを見ながら色々と言い合ったり、とっても好きな後輩の一人。
それに、彼のスノーボードに対する思いからは、多くのことを学んでいる。
晃平は、間違いなく世界に近い日本人の一人である。
一緒に練習していても、想像も出来ないようなライディングをするし、
見ていてとても気持ちがいいよね。
たまに、彼に乗り移って滑ってみたい〜なんて思うくらいだから(笑)
1本目、今日一番のフィーリングがでるライディングだった。
しかし、晃平とは0.7‾8秒位の差で、リードを許してしまう。
2本目、晃平がフライングをした。
俺はとても冷静だったけど、晃平の心理状態は乱れていたと思う。
後からビデオ見たんだけど、晃平があんなイージーミスするなんて信じられない。
ゴールのわずか手前で、リードしていた晃平が転倒し、僕が先にゴール。
今回のプロツアー最終戦での波乱は、このヒートだったと思う。
僕は気持ちで勝った、そう思う。
でも、晃平の気持ちがいいのが、絶対に言い訳をしないこと。
たまに、言い訳ばっかりする選手がいるけど、彼は俺の前では絶対に言い訳をしない。
晃平よ、君の実力は本物だと俺は思う。
後は気持ちだけ、気持ちが強く変われば、きっと世界で対等に戦えるはず。
今回は、晃平というライダーと戦えて本当に良かった、ありがとう。

準決勝、相手はこれまた強い強い戸崎啓貴。
この男もずば抜けた能力を持ち、う〜ん、これも相手が悪い。
戸崎とは、色々と言い合える仲で、僕はこの先の彼の本気を見たいと思っている。
シーズン中盤からかな、彼のスノーボードに対する取り組みが大きく変わったように見えて、
その結果が、爆発的なタイム差で勝てる能力だと思う。
だけど、彼の潜在能力はこんなもんじゃないと思う。
その本気を、この先みたいと思うのが僕の楽しみの一つなんだ。
1本目、戸崎との差は0.8‾9秒くらいだったと思う。
2本目は、死ぬ気で突っ込まないと絶対に勝てない。
それでも・・・、滑り終わった後に、「あぁ、まだまだいけた・・・」という、
残念なフィーリングが残ってしまった。
勝負にこだわりすぎて、自分のすべてを出し切れなかった。
戸崎が一枚も二枚も上手だった。完敗。

負けた俺は、3位決定戦に回ることになった。
この頃には、ゲレンデは吹雪なり、視界も悪くなり、強い風、吹き付ける雪で、
コース状況もどんどんと変化していった。
3位決定戦の相手は工藤英昭さん。
工藤さんは、僕がスノーボードを始めた頃にはすでに有名なトッププロで憧れ的な存在の一人だった。
僕は、工藤さんのプロ根性は、若い子達は見習うべきだと思っている。
それだけ、工藤さんの取り組みはプロフェッショナルだと思う。
それでも、勝負は勝負。
絶対に負けてはならぬと、強い気持ちで工藤さんに挑んだ。
1本目、変化するコース状況に戸惑いながらも自分の滑りを意識した。
まぁまぁのフィーリングだったのに、ゴール手前であわや旗門不通過という大きなミスを犯し、
大きなタイム差をつけられて2本目を迎えることとなる。
次は、泣いても笑っても最後のラン。
リフトの上で色々と考えた。
でも、気持ちは途切れなかったし、全力でスタートできた。
一つだけ悔いが残るとしたら、2本目はスタートで大きくタイミングを外してしまい、
スタート直後からリズムも悪く、すぐに転倒してしまい、そこで勝負がついてしまった。
今思えば、最後の最後で気持ちが焦り、唯一自分を見失った瞬間だ。
結果として、工藤さんにとってはやりがいのない相手となってしまったけど、
僕にはまだ“工藤英昭”という大きな壁は越えられなかった。
工藤さんとは、海外遠征も一緒にしたり、たくさんの思い出がある。
そんな工藤さんの根性を、僕ももっともっと見習わなければならない。

こうして、プロツアー最終戦は4位という結果で終わった。

レースが終わり、仕事の関係でいつも大変お世話になっている方からシャンパンをもらった。
シャンパンには手紙が入っており、その手紙にはこう書いてあった。
「長岡君、4位入賞おめでとう!働きながらスポーツを続けるには人一倍の努力が必要です。
 でも、がんばり続けることが一番大切です。君の努力には元気をもらいました。
 互いに励ましあって、これからも行こう!!」
僕はとてもうれしくなり、がんばり続けることをやめてしまったとき、自分がどうなるのか?考えた。
今は、全力を尽くして取り組んできたので、少しだけ何も考えずに過ごしたい。
そして、その先に何かのエネルギーを見つけられたら、きっとまた歩むであろう。

それから、若い子達へ。
俺は、シーズン中に色々と厳しいことを言ったりしてきた。
それは、君たちの能力を信じて、思いを信じて、それを成就してほしいからだ。
時には、口うるさく言い過ぎたかもしれない。
それでも、俺にはもう君たちに言えることはない。
君たちは立派に、一つのことに対しての思いを貫き通していると思う。
だから自分を信じて、強く思い、たゆまぬ努力を続けてくれ。
その結果として、大きな大きな夢を叶えてくれ。

最後に、こんな僕を変わらず応援してくれる皆様、本当にありがとう。
「強く思う」ことを大切にし、すべてにおいて全力で取り組んで“生きたい”と考える、
長岡英明、2009年の春でした。

ありがとう。

ひで